スライムってどんな感触だろう?VR空間での「触覚」をテーマに、プロダクトの研究開発に挑戦している友人の金子大和氏にインタビューしました。
デジタルデータに触れる、人とコンピューティングの新しい関係を作り出す
Oculus GoやHTC Viveなどの端末の普及に伴って、バーチャルリアリティ(=VR)の世界が一般化しつつありますが、例えばVR内のキャラクターやモノにはまだ触れることができません。
これまでに人間とコンピュータの関係は著しく発展し、今ではスマートフォンのスクリーンを通じて、自由自在にデータを扱えるようになりました。しかし、両者の関係がこれで完結するはずはない思います。直接データに触れることができたら、世界は変わると確信しています。
触覚をテーマに、プロダクトマネージャ兼COOとして事業に関わる
exiiiの事業の主軸の一つは、「EXOS」の開発です。EXOSは、前後方向(掌背屈)と左右方向(橈尺屈)の二方向に力を加えることで様々な触覚を提示してくれるデバイスです。もう一つは、触覚の研究開発です。これらの事業に、プロダクトマネージャ兼COOとして携わっています。
社内には、電気エンジニア、メカエンジニア、ソフトウェアエンジニア、と多くの分野のエンジニアがいます。プロダクトマネージャとしての仕事は、プロダクトとエンジニアの間に立ち、設定したゴールに向けて開発を推進することです。
現在は、ハードウェアの開発がひと段落したので、ソフトウェアの開発に注力しています。SDKを改良して開発者の環境を改善したり、触覚の体験をよりよくするためのアルゴリズムのアップデートなどに取り組んでいます。
COOとして仕事は、人事、広報から、特許などリーガルな領域まで多岐に渡ります。限られた予算は、特定の分野に精通したプロフェッショナルのエンジニア陣に寄せたい、と考えた結果です。
手首を起点にして触覚を与えるEXOS
exiiiが触覚の研究開発を始めたのは、2017年の初め頃です。2019年8月現在で最新のモデルは、去年の10月に発売したEXOS Wrist DK2です。DK1から約1/3程度まで軽量化できたので、両手で長時間使用できるようになりました。手首に装着することで、Vive ControllerやOculus Touch等の標準的なコントローラと組み合わせて使用することができます。
現モデルは手首を活用するタイプで、5本の指を解放する形状になっています。しかし、過去のモデルには5本制御するタイプもありました。今のモデルと違い、指先で摘む動作を制御できる代わりに、固定物に触りにくいデメリットがありました。
人間の手を完全に再現するのは、非常に難しいです。今のモデルも最終ゴールというわけではありません。触覚を担う端末を開発するには、ケースバイケースでハードを構築する必要があることを痛感しました。
同じ分野の研究開発で注目を集めるHaptX
触覚をテーマにプロダクトの研究開発をしている企業は、exiiiだけではありません。競合として注目している企業に、アメリカのHaptXがあります。彼らは、手に触れる気泡の形状を変化させることで、手にバーチャルオブジェクトの感触を与える手法を開発しています。
同社の開発するグローブには、多数の気泡が敷き詰められています。圧縮された空気を出力するスーツケースほどのコンプレッサーとグローブをケーブルでつなぐ大掛かりなデバイスですが、その分、滑らかでリアルな感触を体験できるようです。
現実と仮想現実の境界は「触れるか」
コンピュータで作られた仮想世界を体感できるVR。コンピュータで作った情報を加えて拡張した世界を体感できるAR。その間にある「MR」の今後に興味があります。
MRを実現する一つの手法に、現実世界の情報をカメラなどで取得し、コンピュータが作る仮想世界に反映させる、ビデオシースルーという技術があります。特にフィンランドのVarjoには注目しています。同社の開発するヘッドセット「XR-1」には高性能カメラが搭載されており、カメラが映す現実世界に高解像度のCGを重ねて表示できるようになっています。
人間の視覚がコンピュータの作る新しい世界を受け入れつつある今、現実と仮想現実の境界は「リアルに見えるかどうか」から「触れるかどうか」にシフトしつつあります。このギャップを埋めていくのが、自分達にとってのミッションだと思います。
使うのも人間、作るのも人間。その間を担う人間でいたい。
「人間とコンピューティングの新しい関係性」を模索することは、自分にとっての大きなテーマです。今は、そのアプローチの一つとして「触覚」と向き合っています。
長い歴史の中で、技術の深層は複雑化し、表層は単純化されてきました。それに伴い、1人あたりの開発領域も広くなりました。しかし、最終的なプロダクトに関わる人数はそれほど変わりません。そして、人間が使うプロダクトを人間が作るためには、進むべき道を選び、チームを束ねて推進させる人間が必ず必要です。プロダクトマネージャとして仕事の醍醐味はそこにあると感じています。
写真・取材:青山 航
語り手:金子大和